「建設の仕事に就くためには、学生時代にどんなことを学べばよいですか?」と学生の方に時々聞かれます。私はいつも、「学校では原理原則を学び、ものごとの本質を見極める力をしっかり身につけてもらいたい。実業の知識は、入社してから実践で嫌というほど覚えられます」とお答えしています。知識は誰でも後から身につけられるものです。それよりも、本質を見極め、熱意を持って真剣に物事に取り組む姿勢の方がはるかに大事です。熱意があればどんなことでも覚えるし、それが仲間や、ひいてはお客様との信頼関係にもつながっていく。そうした若者は、マネジメント能力をみがくことによって、会社の経営にも携わるチャンスがあります。
学生のみなさんには、時間的制約の少ない学生時代にしかできない様々なことにチャレンジしていただきたいと思います。海外留学でもいい、部活やボランティア活動でもいいのです。柔軟な発想で知識や見聞を広め、知人をたくさんつくることができれば、それはその人の財産になるだけでなく、その人が入社する会社の財産にもなるのです。
清水建設には二百年余の歴史があります。その歴史に培われた価値観や社風を全員で共有し、それを伝統としてきました。そして、その伝統をきちんと継承しながら環境の変化に応じて様々なチャレンジを行ってきました。時代は常に進化しています。これからも、伝統を時代に沿った形で守り、高めていかなければなりません。
そのためには、社員全員が様々な考え方を持ちながらも、同じ方向を向いていることが必要となります。風通しがよく、社員ひとりひとりが率直に意見をいい合える組織でなければなりません。私自身、定期的に支店を回り、ベテランから若手まで、社員と直接対話する機会をできるだけ多く持つようにしています。また、月一回刊行の社内報で、「社長とちょっと一息」というコーナーを設け、私のほうから情報を発信し、それに対してイントラネットで社員から自由に意見や質問を投げかけてもらい、私からのコメントをフィードバックすることも始めました。
清水建設は、社員ひとりひとりが財産です。生き生きとした活力ある組織の中で、社員それぞれが考え、発言し、議論ができる。それをすべての場面で行えれば、全員が同じ方向を向く、すなわちベクトルが合うことになります。それが最も大事な「シミズらしさ」であり、社員全員が明るく、元気に生きていくことにつながるのだと考えています。