「百貨店は、今後も大いに成長力があってどんどん会社が大きくなりますよ」ということはいえないし、それは学生のみなさんもおわかりになっていると思います。
その一方で「百貨店はなくてもいい」などともいわれていますが、その見方も違います。日本の消費生活の中で、日本人の持っている文化性といったものをうまく取り入れて、百貨店は日本の小売業界の中で一定のポジションを維持できると確信しています。それは前にお話ししたように、変化にきちんと対応していく力を自身で身につけていくことによって獲得できるものです。
だから、売場で接客してお客様に商品をいろいろな形で提供していくことに興味を持っている人は、大いに活躍の場があります。それだけではなく、今後海外、特にアジアで仕事をしていくということも十分考えられますし、商品に関してはヨーロッパを中心としたインポートものを活発に取り入れていくので、それに関連した業務でも大きな可能性があります。
また、百貨店はその他の小売業態と比べて、人と人とのコミュニケーション能力が特に重要視されると思います。販売の現場ではいうまでもありませんが、お取引先との商品開発の仕事でも、あらゆる局面でコミュニケーションが大切です。
最近の若い人たちは、以前と比べると人と人との直接のコミュニケーションが少し不得手になってきているのかなと感じます。
やはり、IT機器がビジネスの現場にも家庭生活にもかなり入ってきているために、ストレートな人とのコミュニケーション能力が少し退化しているのではないでしょうか。
IT機器は非常に役立つツールであり、ビジネスでも大いに活用したらいいのですが、ビジネスの最後の決め手がすべて、ITの中で完結するということではありません。最終的には人と人とのきちんとしたコミュニケーションで完結するはずです。それは小売業だけではなく、どの業種でも同じだと思います。メールやパソコンで用が足りる場合は、大いに利用していいのです。でもそれだけでは済まないことも重視しなければなりません。そういったコミュニケーション能力がないと、百貨店での仕事は難しいと思います。
しかし、コミュニケーション能力を高めるためにどうすればいいかという点は、学校で教えてくれることではない。要は対人能力です。勉強や知識、教養もその人の人格形成に非常に重要なことですが、人ときちんと会話をしていく能力や表現力、人間としてのトータルの魅力が求められているということではないでしょうか。
売場でも、お客様から見て非常に感じのいい販売員がいるかいないかでずいぶん違います。同じ商品が置いてあっても、販売員の感じが非常に悪ければ「この店では二度と買わない」という気になります。それは、売場にいる人たちのコミュニケーション能力の問題なのです。
結局、コミュニケーション能力がある人、魅力ある人をきちんと育てられるかどうかが、これからの髙島屋の決め手だと思いますし、ビジネスパーソンとして不可欠なことではないでしょうか。